2021年の菅政権による「2050年カーボンニュートラル」宣言以降、日本でも住宅をはじめとする建築物全般の断熱性能の見直しが進み始めました。これは住環境の向上において非常に喜ばしい変化です。
しかし、先進国の中でも建物の断熱性能が突出して低かった日本では、業界全体の断熱への知識不足による「過度なアピール」や「性能の過剰評価」が目立つようになっているのも事実です。
「断熱等級」の数値だけでは見えない真実
断熱性能を評価する上で、外皮熱熱貫流率(UA値)や気密性能(C値)が重要であることは間違いありません。一昨年には従来の最高ランク(等級4)を超え、等級5・6・7が新設され、「GX指向住宅」といった新しいカテゴリーも普及し始めました。多くの方が、こうした等級や名称を「高断熱かどうか」の判断基準にされているかと思います。
その考え方自体は間違いではありません。問題は、日本の計算・評価基準が他の先進国に比べて大まか過ぎる点にあります。
細かな計算やシミュレーションを行わずに「高断熱」と評価されてしまうため、実際に住んでみると期待したほどの断熱効果が得られず、結果として無駄なエネルギーを消費し続ける住宅が増加しているのです。
「夏の暑さ」に悩まされた施主様の実例
現在、久留米市内で施工中の施主様は、約4年前に「断熱等級6相当」の新築住宅を建てられました。冬の寒さは問題なかったものの、夏場はエアコンをフル稼働させても室温が下がらない事態に陥ってしまったのです。
「高断熱のはずなのに、なぜ?」
疑問を抱いた施主様が自ら調べ尽くした結果、ご自身の家が「日本のおおざっぱな計算による、間違った高断熱住宅」の典型例であることに気づかれました。「この家で一生暮らすことはできない」と決断され、以前の建物を手放して当社に再度の家づくりをご依頼いただきました。
しかし、多くの方にとって家づくりは一生に一度のこと。「こんなものか」「仕方がない」と諦めてしまっている方が大半なのではないでしょうか。だからこそ、作り手側の正しい知識と倫理観が問われているのです。
真の高断熱住宅に必要な「7つの検証」
本当に快適な高断熱住宅を計画するには、UA値やC値だけでなく、最低でも以下の要素を網羅した詳細な計算とシミュレーションが必要です。
- 断熱性能(基本数値)
- 断熱材の素材選定
- 建物の配置・形状
- 屋根の形状
- 日射取得率(冬の太陽光の取り込み)
- 日射遮蔽(夏の太陽光のカット)
- 輻射熱対策
断熱先進国であるヨーロッパ諸国では、こうした綿密なシミュレーションが建築基準法上で義務化されており、その基準は日本とは比較にならないほど厳格です。
業界で「断熱の鬼」として知られる松尾設計事務所の松尾和也氏も、YouTube等で「“なんちゃって高断熱住宅”が多すぎる」と強い危機感を表明されていますが、まさにこれが日本の建築業界が抱える現実です。
失敗しない家づくりのために
日本で欧米並みの厳しい計算やシミュレーションが義務化されるのは、まだずいぶん先のことになるでしょう。しかし、国内にもそうした高い基準を取り入れ、明確な根拠を持って家づくりを行っている設計事務所や工務店は確実に存在します。
当社も10年以上前から国内は元より、欧州や北欧の断熱先進国へ直接足を運び、本物の高断熱住宅を肌で学び、その知見を設計に活かし続けてきました。
失敗しない高断熱住宅を建てるためには、単に「断熱等級6」「GX指向住宅」といった言葉や数値だけを鵜呑みにせず、「その性能を裏付ける明確な根拠や緻密なシミュレーションを示せるか」を確かめることが何より重要です。依頼先が持つ知識と実績の真偽をしっかり見極めることが大事で、後悔のない家づくりへの第一歩となります。
