福岡県みやま市のナチュラル住宅 株式会社 彩 irodori

自然素材を使った人にやさしいナチュラル住宅

パッシブハウスの底力

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昨年6月末に長野県軽井沢にあるPASSIVE HOUSE JAPAN代表理事・森みわさんの自邸を視察と勉強に行ってきました。

今回の森さんの自邸は、パッシブデザインに携わる者であれば誰もが気になる、凄い建物です。

昨年の1月には、ガイアの夜明けで「寒い冬を乗り越えろ」というタイトルで、建築中から完成寸前までを特集で放送されました。

日本最高峰の断熱技術として紹介され、当然私もリアルタイムで視聴し、存じ上げていた建物です。

https://www.tv-tokyo.co.jp/gaia/backnumber4/preview_20230113.html

今回、視察と勉強に行くきっかけは、当社が標準で採用しているシュタイコ断熱(木質系断熱材)を森さんのご自宅にも採用されてあり、その他、塗料、気密シート等、採用されている建材に同じ商品も多く、ドイツのリボスやウルト商品他の日本販売代理店であるイケダコーポレーションさんのお世話で、このような貴重な機会を設けていただきました。私達の他にも、全国から20数社の工務店や設計事務所、他には、当社も標準採用しています樹脂サッシメーカーのエクセルシャノンさん等が、一緒に視察研修を受けました。

今回の建物は、森さんのプライベートな自邸でもあることから、外観の撮影はOKでしたが、さすがに室内撮影はNGでした。

今回、森さんとお会いして、お話をするのも初めてでしたが、私のイメージしていた森さんは、本場ドイツでパッシブハウスを極め、凄くストイックで、バチバチの近寄りがたい方というイメージでしたが、さばさばとした、何事もざっくばらんにお話してくれる気さくな女性でした。建物の断熱性能に関する考え方について質問しましたが、「過度な断熱性能にする必要はなく、それぞれの地域にあった適切な断熱性能を推奨します」との。私始め、他の参加者の方々も、森さんが代表のPASSIVE HOUSE JAPANと言えば、極限まで断熱性能を追求するという考え方とばかり思っていた方も多く、先の言葉に皆さん「へ〜」と言うリアクションでした。

理想的なのは、HEAT20 G2.5以上(新断熱等級6.5)ですが、地域によってはやはりHEAT20 G3(新断熱等級7)が必要な感じの考え方のようで、森さんの自邸もHEAT20 G2.5レベルの断熱性能でしたが、断熱材やサッシは元よりガラスの特性、更には気密や熱橋を理解せず、間違った施工をしてしまうと、数値以下の温熱環境になってしまう事は当然付け加えられましたが、参加各社は当然のごとく、そこは理解をしている方ばかりのようでした。

ただ、今回森さんの自邸について事細かく説明を受ける中で、やはり日本のサッシの性能に関しては限界を感じておられ、今回採用してあったサッシはすべて木製のサッシ枠で、長野県の木製サッシメーカーさんと共同でドイツレベルのサッシ枠を作成され、ガラスに関しては国内産ではなく、すべてフランスからの輸入と言う事でした。

当日、ご一緒していたエクセルシャノンの方との意見交換も致しましたが、エクセルシャノンとしてもやはり北欧レベルのサッシ性能を念頭に、今後は商品の性能向上を図る意味もあり、参加されたそうでした。

PASSIVE HOUSE JAPANの会員の工務店やビルダー各社のサッシや断熱の仕様は、やはりドイツ製の木製サッシや樹脂サッシを標準仕様にしているところも多く、その理由は日本製のサッシ枠とガラスの性能に不満があるからです。パッシブデザインに携わり、温熱の計算をきちんと行っている会社であれば、誰もが不満に思い、頭が痛い所で、当社でも、サッシの標準仕様を2年前、YKK APからエクセルシャノンに変更したのは、樹脂サッシ枠とガラスの性能や維持メンテナンス性が国内メーカーでは一番優れており、高断熱住宅を手掛ける多くの建築家さんにも、国内メーカーでは最も信頼を受け実績あるメーカーの一つでもある事が大きな理由です。

私もドイツ製のサッシを使えば当然温熱環境は有利になると言う事は理解していますが、問題はコストなんです。

何事もそうですが、コストをかければ色々できる物なのですが、費用対効果や、過度に断熱にこだわりすぎれば、当然断熱の部分に多くの予算を奪われ、質的や空間の予算が犠牲になってしまう事が非常に難しく、断熱性能が良ければ建物の面積やトータル的質は犠牲になってもいいと言う考え方の会社もありますが、当社的にはその考えには至らず、やはりバランスが大事だと考えます。

今回参加された各社の方も、私同様、自社の落としどころやトータル的なバランスに悩んでいる方が多かったようで、森さんに対する質問でも、やはり自社の落としどころに関する質問が1番多かったですね。

話は変わりますが、とにかくパッシブデザインの有利な点は、消費エネルギーを大きく削減できることです。当日、森さんの話にもありましたが、適切な断熱と気密、適切な日射遮蔽、適切な日射取得、ここをきちんと行うことで、日本のZEH基準レベルの建物では、初夏や初冬のそろそろ冷房や暖房が必要になる時期に、パッシブデザインを適切に取り入れた建物では冷房や暖房の必要もなく、俗にいう春や秋のような中間期を長くすることができるのです。

また、当然室内の風の通り道や空調計画も重要で、当日、森さんの自邸1階リビングに大人30人程いたにもかかわらず、エアコンの必要は全くありませんでした。例えば、大人一人が発する熱量は100W程で、30人いれば3kWになってしまうことになり、石油ストーブ約3台分の熱が出ているような状況だったわけです。当然、軽井沢という涼しい環境ではありましたが、あくまでも室内での話で、私は最前列で話を伺っていましたが、何気なく森さんが1ヶ所のサッシを開けられると、スーッと心地よい風が抜け、3時間ほどのお話でしたが、エアコンを使うことなく、終始居心地の良い建物でした。

今回の森さんの自邸には、建物の外壁や内装の素材にもサスティナブルな建材を多く採用しており、外壁には地元産の松、室内には杉や1階の床は、当社もよく使用する同じメーカーさんのヨーロピアンオーク等、やはり環境負荷や劣化対策にも配慮された建物でした。

更に、こちらの建物の凄いところは、約40坪の建物ですが、エアコンは6畳用のエアコンで全館冷暖房が十分可能ということです。パッシブデザインのまさに理想的手本です。

それから、私も数年前に北欧視察の際、太陽光発電と太陽熱温水器とペレットストーブを連携させた給湯や床暖房を森さん独自で各メーカーの器具を組み合わせて取り入れてあるのにも感銘を受けました。さすがチャレンジャーです。

また、今回の森さんの自邸建築に至った理由は、東北の震災時、現在お住まいの神奈川にて物流の混乱やインフラの不具合等に見舞われた事から生活への支障を経験され、他事もあり、都心からもさほど遠くない軽井沢であれば、震災時の食料不足や万が一インフラが途絶えた場合でも、年間の気候も良く農業などの1次産業が多い地域だと、ある程度生活は成り立つと判断されたそうです。

危機管理という観点で言えば、数年前に静岡で視察した日本初の完全オフグリッドで更に水も自給自足できるパッシブハウスも、まさに南海トラフ地震への備えから開発された建物でした。

私自身、国内外色々な建物を視察してきた中で、パッシブデザインの建物は、日ごろからエネルギーを無駄に使用しないという点が最大の特徴で、結果的に家計の経済効果はもちろん、万が一の場合でも必要最小限のエネルギー使用で生活が可能な点や、真夏や真冬の災害時、インフラが途絶えた場合でも、一般的な住宅に比べ、室内の住環境はかなり良くなるという部分はかなり大きいと感じます。

私の感じる、日本における高断熱・高気密の住宅の特徴は、断熱性能と気密にのみ特化している数値優先の建物が多く、このような建物は当然エアコンの効きはいいでしょうし、消費電力も一般的な建物よりは低いかもしれません。しかし、屋内環境を整えるためには、冬季であれば日射取得率の低い遮熱型のトリプルガラスを使えば、室内を温めるためのエネルギーが必要になります。夏季であれば、日射遮蔽を施さず、通風も度外視した建物では、室内を冷やすためのエネルギーが必要で、冬季、夏季共に複数のエアコンや高額な全館空調を連続運転で使用しなければならなく、結果的には無駄なエネルギーを使うという点は、パッシブデザインの建物との大きな違いです。

とにかく、昨今の住宅の販売や設計に携わる方々の温熱に関する知識があまりにも欠落しているのは、世界的にも断熱の基準が低すぎる国の規制の在り方が大きな原因だと思います。

国の規制といえば、環境負荷や再エネ利用でも世界的にリードしているドイツでは、州によってパッシブハウスが建築基準になっている地域がある一方、日本ではパッシブハウスやパッシブデザインすらあまり認知されておらず、外皮熱還流率と気密数値のみで断熱の評価がされがちです。

更には、現行基準のZEH(ネットゼロエネルギー住宅)断熱等級5がこのレベルが高断熱住宅と言うのは、他の先進国からすればあり得ないレベルです。

しかし、パッシブデザインの建物は、生活をしてある方々がやはり性能を実感しており、「空気が違う」と言う所は、当社のOB施主様からご紹介いただいたお客様方が「他の家とは違う」とよく耳にしますが、お住まいではない方がよく感じられるようですね。

また、実際お住まいのOB施主様からも色々なお話を聞く中で、最近皆さん一番気になる光熱費について、久留米市の施主様のケースではオール電化、太陽光発電なし、30坪ほどの3LDKに大人4人でお住まいの宅は、光熱費が年間平均いまだに8,000円台です。

柳川市の毎日日中は在宅の時間が多い施主様宅では、今年の異常な猛暑にもかかわらず、天気がいい日は午前中エアコンを入れることはほぼないそうです。

筑後市の保育施設の園長先生によると、例年園舎で午前中エアコンを使うケースが非常に少なく、ただ今年は暑さも厳しかったこともあり、ちょっと使ったかなとおっしゃっていました。

太陽光発電を搭載した段階的に断熱性能を引き上げたハイスペックZEHの施主様であれば、当然FIT期間でもあり、年間トータルでの光熱費は全く発生せず、逆にプラス収支の状況です。

この他にも、新居へ住まわれパッシブ的効果を体感されたお客様の中でも一番多いのは、2階居室や南に面した居室で冬場暖房の使用頻度が非常に少ない、又は冬場布団の必要がない、中には石油ストーブ1台で全館暖房してある方や薪ストーブの出番が少ないと言うちょっと悲しい悩みも耳にします。

先に述べた話は、いずれも断熱強化もありますが、一番の要因はパッシブデザインからなる効果なのです。

ただ、パッシブと言っても全てが同じわけではありません。

パッシブと名の付く中でも、国内外で最高峰なのはパッシブハウス認定を受けたパッシブハウスです。

国内では、PASSIVE HOUSE JAPAN代表理事の森さんの審査を受け、様々な条件をクリアして初めてパッシブハウス認定を受けることができ、パッシブハウスを名乗ることができます。

しかし、この認定取得が大変です。

現在、当社も県南ではほとんど例のないとある認定を受ける準備を進めておりますが、比になりませんね。

性能に関する証明の図面や温熱気密に関する数字的資料作成、更には申請に要する高額な費用。

当然、認定を受ければ建物の評価や会社の評価は上がるかもしれませんが、当社的にはその分の時間と費用は違う物へ回した方がいいという考えです。

後は、どこまで踏み込むか、又どこまでの性能を追求するかなのですが、ここは現在の全体にかかる費用対効果を考えれば、当社的には今の所そこには至っておりません。

後、現時点の建物が当社のお客様方の事を思えば、光熱費の収支状況や技術者観点から長期に渡る維持メンテナンスに関する劣化対策等、全体的に費用対効果のバランスは一番いいと考えおり、パッシブハウスではなくしばらくはパッシブデザインの住宅です。

ただ、パッシブを名乗る以上パッシブ的条件はクリアする事は大事に考え、パッシブにも複数の団体がありその団体ごとに目標とする温熱条件があり、当社は住まいと環境社の野池政宏さんに学んだ以上は、野池さんの定める一定条件はクリアするように心がけ、計画的温熱環境の計算をしながらの設計手法を行っています。

計画的温熱の計算とは、分かりやすく言えば断熱性能は当然のごとく、エネルギー使用量や設計段階でオールシーズン、フルタイムの室温が分かるシミュレーションを行いながらの設計等の事です。

当然、目標設定が一番高い団体はPASSIVE HOUSE JAPANです

先日、視察の際、森さんとの個人的雑談で「野池派です」とお話ししましたら、「ふわっとしたパッシブね」と笑ってありましたが、森さんと野池さんの仲だからこそのジョークでしたけど、でも先に述べたように、PASSIVE HOUSE JAPANの目標数値は当社よりも間違いなく数段厳しい設定です。

上には上がいるように、パッシブデザインのスペシャリストの中には、冬場ほぼ暖房器具を使用せず、日射所得の熱のみで24時間室温20度キープできている建物を作る方などがいて、パッシブデザインの可能性や実績を考えれば、当社の今の建物が絶対とは言えません。

建物の温熱環境の向上やエネルギー収支の削減工夫は、今なお勉強し模索していますが、本当に難しいですね。

しかし、ここは企業努力!

建物全体価格に対する費用対効果を考えながら、大規模なハウスメーカーや中規模ビルダーにはできない、小規模な技術が売りの地場工務店だからこそできる、パッシブデザインを生かしたよりエネルギー収支が少なく、サスティナブルな環境負荷の少ない家づくりを目指し、これからも少しずつですが前進していくつもりです。

イケダコーポレーションさんがHPのコラムにて、森みわさんの自邸を取り上げていましたので、そちらもぜひ